鈴木 萌子

茨城の田舎で、無農薬野菜を育てる両親のもと育った私の幼少期は、ニワトリや犬、リス、金魚など、様々な生き物との共生の日々でした。そこで目にした小さな命の循環は、現在の制作活動の原点となっています。
かつて日本の森では、適度な個体数によって自然のバランスが保たれていました。しかし、人の活動による環境改変は、その繊細な均衡を大きく揺るがしています。私たちは地球からの「ギフト」として命をつないでいますが、その借り物の生命をどのように次代へ継いでいくのか。
「Stone」は、人工物と自然の境界を問い直し、新たな共生の可能性を探る試みです。江戸から明治時代の銅精錬過程で生み出された産業廃棄物
「カラミ石」を中心素材に採用し、かつては海に投棄されていたこの人工鉱物を、植物が生育可能な培地として再構築しています。カラミ石に穴を穿
ち、それを粉砕して土と混合した特殊な培地に種子や苔を植え付けることで、産業廃棄物と自然の融合を通じた新たな関係性を提示しています。
「Bone」では、駆除された野生動物の骨を素材とし、それを粉末へと変化させることで、人間の介入によって歪められた自然界の関係性を視覚化しています。近年の開発による生息地の分断化や里山の管理放棄により、生態系の均衡は崩れつつあります。この変容プロセスは、現代における生態系の変質と、そこに残される「痕跡」の象徴として機能しています。
作品制作の過程では、できる限り自然の力を借り、環境に寄り添う方法を選んでいます。それは、幼い頃から教わってきた、土地との対話の作法でもあります。これらの作品は、私の原風景である農村での経験と、生態系における人間と野生動物の複雑な関係性を重ね合わせています。形あるものから形なきものへ、そしてまた新たな形態への変化を通じて、人間活動が引き起こした生態系の歪みとその連鎖を探求します。
この制作を通じて、私は失われゆく均衡を見つめながら、人間と野生動物との新たな共生関係を模索しています。それは同時に、幼い頃から親しんできた「自然」という機念を問い直しています

展示